追悼 谷川俊太郎さん
2024年11月27日
編集のはなし
- #編集
つい先日、11月13日に詩人の谷川俊太郎さんが亡くなられました。享年92歳。長い間日本の詩の世界を牽引されてきた方です。
「言葉」の持つ温かさ、優しさ、怖さ、やるせなさ…谷川さんの詩を読むと、ホッとしたり、心の奥深くでさざ波が立ったり、えも言えぬ感覚に襲われたり…。亡くなったと知り、「ひとつの時代が終わっちゃったんだな」と、本棚にある谷川さんの詩集を取り出してきました。
私が好きなのは、『手紙』という詩集に掲載されている「未知」という詩です。
手元にあるのは1992年の版なので(初出は1982年)、30年以上前に出会ったことになります。
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未知 谷川俊太郎
昨日までつづけてきたことを
今日もつづけ今日つづけていることを
明日もつづけるそのあたり前なことに
苦しみがないと言っては嘘になるが
歓びがないと言っても嘘になるだろう
冬のさなかに春の微風を感ずるのは
思い出であるとともにひとつの予感で
昇る朝日と沈む夕陽のはざまに
ひとひらの雲が生まれまた消え失せるのを
何度見ても見飽きないのと同じように
私たちは退屈しながらも驚きつづける
もしも嫉妬という感情があるのなら
愛もまた存在することを認めればいい
足に慣れた階段を上り下りして
いくたびも扉をあけたてしごみを捨て
時には朽ちかけた吊橋を渡って
私たちは未知の時間へと足を踏みこむ
どんな夢も予言できぬ新しい痛みを負いつつ
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繰り返しに思える毎日の中で、「生きていこう」と思える詩です。
少年詩集『どきん』も好きです。和田誠さんのイラストとあいまって、宇宙が広がるような感覚になります。
御冥福をお祈りいたします。