『現代詩が好きだ』を読む
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「言葉を紡ぐ人々の存在」を知る
12月1日、小笠原鳥類さんの『現代詩が好きだ』がライトバース出版から出版されました。小笠原鳥類さんが、1999年から2024年にかけて雑誌やムックなどで発表された文章を選んでまとめられたもので、多くの人の詩が紹介されています。
冒頭の「はじまるよ」で「ささやかな参考資料の1冊になってほしい」「むかしの詩はいいし、今の詩もいいぞ」と述べられている通りの本です。巻末の索引を読むだけで、さまざまな「言葉を紡ぐ人々」の存在を知ることができ、索引からページを開くと、そこでその詩に対する小笠原さんの想いに触れることができます。「はじまるよ」の文章の句読点の打ち方で、小笠原さんが言葉を大事にする詩人であることがわかります。
思い出がよみがえる
私には、業界新聞のかけだし文化部記者だった時代に、マガジンハウスから「鳩よ!」という詩の雑誌が創刊され(1983年12月、あぁもう40年以上前?!)、詩の評論家に取材するために大量の詩を読んだことがあります。たしか創刊号は「ランボー特集」だったはず。「鳩よ!」はまたたくまに話題となり、世の中に「ランボーブーム」が巻き起こったのを覚えています。(小笠原さんの卒論はランボーだそうです。でもお若いので、当時のランボーブームはご存知ないかな)
その当時は、渋谷西武に「ぽると・ぱろうる」、池袋西武に「ぽえむ・ぱろうる」という詩の本ばかりを扱う本屋さんがあって、せっせと通っていました。津軽方言の詩集「まるめろ」(高木恭造)に出会ったのもこの書店。新川和江さん、茨木のり子さん、(大塚にお住まいだった)田村隆一さん、谷川俊太郎さん、吉野弘さん…たくさんの詩集を読んだっけ。
特に、新川和江さんが大好きで(サイン本は宝物)、「わたしを束ねないで」が有名だけれども、当時のNHK「きょうの料理」の雑誌の巻頭の、和菓子の写真に添えられた詩がとても素敵で、「この詩と写真だけを集めた本を出してくれないかな?」と思うほどでした。『現代詩が好きだ』を読むと、言葉に支えられた若き日を思い出します。
詩って、その行間に「自分」を映すことができるのですよね。読み手によって受け取り方が違い、その幅がとても広いと思います。本棚から茶色く焼けた詩集を取り出して読むと、若かった自分が当時持った感情と異なる気持ちを今の自分が受け取って、「言葉って成長するんだな(いや、自分も成長した?)」と思います。詩集を読み直す機会を与えてくれた『現代詩が好きだ』に感謝です。
堀口大學訳のサン=テグジュペリは必読の書
『現代詩が好きだ』の索引を眺めていると堀口大學さんの名前があったので本文を読むと、入沢康夫さんの「ヤカンが飛ぶ」という詩からサン・テグジュペリの「夜間(ヤカン)飛行」(堀口大學訳)が述べられていて、くすっと笑うと同時に、「そういえば、サン・テグジュペリの『人間の土地』(堀口大學訳)が本棚にあったはず」と夜中に本棚をあさったり(でも、見つからなかった)。
飛行機が開発されて(サン・テグジュペリは民間の郵便航空業界に入り、定期郵便飛行に携わっていた。第二次世界大戦のとき飛行機が墜落して亡くなる)、初めて人間が空から町を見たときの記述がとても美しいのです。堀口大學さんの日本語訳が素敵。『人間の土地』も『夜間飛行』もまた読みたくなりました。
言葉の垣根がない
かつて文化部記者だったせいで、文学も音楽もスポーツも一通り全ジャンルを勉強しなくてはならなかったけれど、根はミーハーなので(自分の「好き」という感覚が先行してしまう)、フォーリーブス以来のスタヲタ(旧ジャニヲタ)の私は、SixTONESの「ST」という曲の「完璧だなんて間違ったって思うな 弱さのない世界は強さとは無縁だ」というフレーズに激しく共感し、ルイ・アームストロングの「On the sunny side of the street」に心ポカポカします(推しがバレるな)。
だから、『現代詩が好きだ』の、たとえばp367の「うらうらに 照れる春日に ひばり上がり 心悲しも ひとりし思へば(大伴家持)」に対して、解説の方が「人間存在それ自体のかなしみに通じるように思われる」と述べられていることを紹介した上で、「ここで私は、しかし、山本リンダの、あの歌を口ずさんでしまう。うらうら。」と小笠原さんが述べられているところで「お若いのに山本リンダをご存知なのか!」と思うと同時に、「偉ぶったりしない、言葉の垣根のない方なんだな」とうれしくなってしまいます。
スピッツとか森高千里とか、あらゆるジャンルの人が登場するんですよ! 私は、この本は索引から読まれることをお勧めします。
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